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15 推奨アンテナ

アンテナ(空中線)は通信性能において重要な役割を果たしており、多くの場合、劣ったアンテナは通信システムに大きな影響を及ぼします。そのため、当社のLoRa省電力ワイヤレスモジュールを優れた性能とリーズナブルな価格でサポートするために、登録済み推奨アンテナの情報を提供しています。登録済みアンテナは随時更新(追加)されるため、最新情報をご確認ください。

15.1 A660-900T22 13dBm特定小電力無線局の使用可能アンテナ#

特定小電力無線機器は、工事設計認証または技術基準技適証明を取得した際に指定したアンテナ以外はご使用頂けませんので、当社ご案内する適合したアンテナをお求めください。ただし、受信機および受信専用での利用については高利得の鋭い指向性アンテナなども利用可能です。推奨アンテナのリストは、随時更新されるため、別途提供する一覧にてご確認ください。

使用可能なアンテナの規格は、アンテナの特性データによって制限されます。A660-900T22においては、13dBm(20mW)を最大電力として設計しており、国内の認証機関において、その確認が行われています。本920MHz特定小電力無線においては、EIRP(Equivalent Isotropic Radiation Power: 等価等方放射電力※)は、16dBmを超えない範囲と定められており、モジュール送信電力と、アンテナ利得の積算が、(dBで加算が)16dBmを超えることができませんので、使用するアンテナの利得は、3dBiを超えないよう法令によって制限されることになります。当社が適合アンテナとして認証登録しているアンテナはこれらの基準を満たしたものです。   アンテナは物理的、電気的な構造から、通信機の送信電力に伴う制限がありますが、13dBm (20mW)の極めて小さな電力は、いずれのアンテナであっても安全に使用することができますが、性能を確保するためには、その選択と設置方法に注意してください。

※EIRP(Equivalent Isotropic Radiation Power: 等価等方放射電力)とは、アンテナからある方向に放射されるエネルギーを「等方性アンテナ」(理想アンテナ)での送信電力に置き換えたものです。

15.2 アンテナのVSWR値#

通常、本モジュール向けの登録認証アンテナは、915MHz帯を含め、920MHz近辺のVSWRが最小となるように設計されているものですが、この周波数位置が移動することによって、VSWRが大きくなり、放射特性が悪化します。開発時などは、VNA(ベクトルネットワークアナライザー)を使用することが一般的ですが、確認を容易にするためには、アンテナアナライザー、インピーダンスアナライザ−などの測定器を用いて設置状態におけるVSWRの測定を行うことで容易に確認が可能です。

設置状態において、920MHz〜930MHz付近のVSWRが1.0に近いことが望まれます。一般にVSWR 2.0以下程度での使用が好ましく、3.0を超えると送信電力に対して伝送損失が大きくなります。表 12にVSWRおよび反射係数、リターンロス、伝送損失の対応をまとめます。

表 12 VSWRおよび反射係数、リターンロス、伝送損失の対応

VSWR1.01.52.03.010
反射係数00.20.330.50.82
リターンロス(dB)14.09.56.01.7
伝送損失(dB)00.210.511.254.85

15.3 フレネルゾーン#

電波の伝搬の効率性は、電波の伝搬空間におけるフレネルゾーンの確保によって決定されます。フレネルゾーンとは、送信アンテナと受信アンテナの位置関係(高さと距離など)によって決まる楕円空間状の電波伝搬に強い影響を与える空間であり、この空間の遮蔽物(大地や水面などを含む)の存在により電力のロスや反射が生じることで、伝送距離が縮まります。伝送距離は、通信方式のリンクバジェットによって決まり、A660-900T22 LoRaWAN通信モジュールは規格上の数値で受信感度 -124dBmを持ちます。
実際の受信観測値において、このLoRa通信モジュールから出力されるRSSI値(Received Signal Strength Indicator、受信信号強度)では、-140dBmを下回ります。実際の信号到達の可否は、S/N比によっても変化するため一概に求めることはできませんが、フレネルゾーンによって、送信機が放射した電力が受信機に到達するまでの伝搬経路での損失を見積もることが可能であり、フレネルゾーン域における遮蔽物を減らすことが電波の到達性を向上させます。

フレネルゾーンは、無線周波数と送受信アンテナ間の距離によって決まり、楕円形空間として表されるため、特に、最も広がる中心部分の断面(地面などを想定した場合高さ)が遮蔽されない高さにアンテナを設置することが効果的とされます。通常アンテナ設置の地上高として考えることが容易で、送受信双方の地上高が確保できることが理想的ですが、一方だけで合っても、その効果は期待できます。アンテナからの放射電力による遮蔽物による電力損失は受信電力の減衰に影響し、本モジュールの受信限界感度を下回ることで受信電力を正しく復元できない状態となり受信に失敗します。フレネルゾーン内の遮蔽断面積が少なくなるようなアンテナの設置方法検討することで、受信感度の確保が可能です。表 13に920MHzにおける通信距離に対する大地に対するフレネルゾーンをまとめます。

通常の地表面での一般的な利用においては、自由空間における920MHz無線周波数の距離減衰に対して、地上高や遮蔽物による影響の方が極めて大きいため、一般的な使用方法においてはフレネルゾーンを確保するようなアンテナ設置を検討することが電波送達性能の向上に寄与できます。

一方で、遮蔽物がほとんど存在しない、空中、もしくは、上空(人工衛星や宇宙)に向けた通信の場合は、開放区間として取り扱うことができるため、通信飛距離は格段に伸ばしやすく、その場合は、使用周波数における空間減衰特性も考慮すべきです。また、人工衛星や姿勢が変化する移動体への通信機搭載においては、その一方を円偏波アンテナとすることで、姿勢の変化による偏波影響を受けにくい受信状態を作ることが可能です。

表 13 920MHzにおける通信距離に対する大地に対するフレネルゾーン

通信距離(km)125102050100
フレネル半径
理想アンテナ高(m)
9.012.820.228.640.463.890.3
フレネル半径の60%
アンテナ高(m)
5.47.712.117.124.238.354.2

実際には、横方向の開放空間も考慮する必要があります。電波の伝播イメージは、図 8のように送信機と受信機の間の距離が大きくなればなるほど、楕円形であるフレネルゾーンの高さ(幅も)は大きくなります。

図

図 8 電波の伝播イメージとフレネルゾーンの距離と高さ(幅)の関係

このフレネルゾーンとは、電波の行路長差による位相の変化がπ以内になる範囲のことであり、このフレネルゾーンを通過する波は(波面の波のように)互いに強め合って合成される性質があります。図 9に示す通り、送信機と受信機を結ぶ直線上に何も障害物がなくても、この楕円形の範囲内に地面や水面などを含む障害物があると、反射などの影響によって位相変化が発生し、伝送距離に影響を与えます。フレネルゾーンの定義や、電波伝搬の原理から、アンテナを高い位置に設置することで、地表面から離し地表の遮蔽物の影響を小さくできます。送受信機の双方のアンテナを高所に設置することは現実的では無い場合が多いですが、片方だけをビルの屋上や高層階の窓際などに設置することで大きく到達距離に差が生じます。

LoRa変調による通信においては、一般的な変調方式における同電力の出力よりも、伝搬語の受信レベルが30~40dB以上も低下しても受信できることが特徴ではありますが、距離による電波減衰の影響よりも、障害物による影響で受信レベルが下がることの方が通信到達性の点からは大きな問題となります。

図

図 9 フレネルゾーンとアンテナ高の関係

15.4 外部アンテナの設置方法#

アンテナ素子部分がエンベローブ(通常は樹脂製の筒)に覆われた、完成外部アンテナは、その外装やコネクタの性質から、耐候性(防水や紫外線耐性など)、非耐候性のものがあります。耐候性のものであっても、コネクタのケースとの接合などによって必ずしも耐候性能がそのアンテナ全体で保証されているとは限りませんが、一般に、非耐候性のものと比較すると、耐紫外線効果が高い樹脂や、雨滴の付着などによる特性劣化が小さいものが使用されている傾向があります。

また、外部アンテナは、通常ケースの外に露出して使用する設計のため、アンテナの外装樹脂が直接外気にさらされることを想定しています。また、その外装樹脂は、コネクタ部の金属端子以外が、他の物質に触れない状態で設置することが好ましく、近辺に壁や金属が配置されないことが好ましいといえます。アンテナ付近に金属が存在した場合、アンテナのVSWR(電圧定在波比:アンテナに送信した電力の反射波の率)特性が劣化します。

図

図 10 一般的な920MHz対応アンテナ(左:非防水、右:防水・耐候性)

15.5 PCB基板・FPC基板の設置方法#

ケース・筐体内に内蔵しやすい形状のアンテナとして、プリント基板(PCB)にパターンされたものや、薄いフレキシブル基板などがあり、多くの場合、それらは、両面テープなどを用いて筐体内に容易に固定できる形状となっています。これらの形状の基板は、機器内蔵アンテナとしてよく利用されますが、その性質や扱いやすさについてはいくつかの点で注意を要します。

一般に、多くのPCBやFPCアンテナは、樹脂性のケースにテープなどで固定されることで、設計した特性が得られるように作られています。そのため、取り付けるケースの素材や、取り付ける場所、取り付けたアンテナからケース内包物などの近接距離などの影響によって、特性や性能が劣化しやすい状態になりやすいことに注意が必要です。アンテナメーカーがドキュメントを公開している場合は、それに従うことも可能ですが、実際には具体的な設置・取り付け方法に言及されていない場合がほとんどです。これらの種類のアンテナの多くは、厚さ数ミリ程度のABSやポリカーボネイト樹脂板に貼り付けて使用することを想定しており、周囲に金属が無い状態を理想としています。

また、一般には、920MHz帯通信用アンテナは、偏波面が垂直偏波となるように取り付けするのが良い場合がほとんどです。実際の特性を確認する場合は、外部アンテナ同様にインピーダンスアナライザなどを用いて、VSWRが920MHz近辺で十分に下がっていることを観測してください。VNAを使用する場合は、S11係数やVSWRを表示する機能を使用することも可能です。設置場所を変更することが難しく、920MHzに対してのマッチングが悪い場合(ずれた周波数にVSWRの谷がある場合、もしくは、スミスチャートの中心である1.0R±0jから大きくずれている場合)、マッチング回路を追加することで整合させることが可能です。解決方法・内容は、アンテナメーカーや高周波回路設計事業者などの協力を得るか、マイクロ波帯の高周波インピーダンス整合に関する専門情報を参照してください。本モジュール向けに登録されているこれらのアンテナの例を図 11に示します。PCBアンテナは、硬質のプリント基板用素材で作られたもので、厚さは0.6~1.6mm程度のものが一般的です。FPCアンテナは折り曲げも可能なフィルム素材にアンテナパターンがプリント基板同様に施されています。通常折り曲げて使用することは想定されていないため、曲げて使用すると放射性能に影響を与える可能性があります。特殊なアンテナに円偏波アンテナがあり、時折使用されます。アンテナの多くは垂直、水平方向に設置し、直線偏波で使用する作りになっていますが、円偏波アンテナは、回転方向に偏波面がくるため、回転体や移動体からの電波を受けやすいアンテナといわれています。

図

図 11 一般的な920MHz対応PCBアンテナ(左)FPCアンテナ(中)円偏波PCBアンテナ(右)

15.6 SMD実装基板#

高度なアンテナ組み込み方法に、図 12 SMD実装用アンテナチップのようなSMD(表面実装)型の、基板実装用アンテナがあり、本モジュールにおいても使用可能です。これらは、プリント基板上のパターンと、SMDアンテナ部品を組み合わせることで、放射する周波数帯での電波放射の最大化を実現するアンテナ機構を実現するものです。

先に挙げた、外部アンテナや、PCB、FPCタイプなどの形状のアンテナと比較して、最も実装難易度が高く、正しい設計と実装を行うためには、高度な測定機器と、専門知識、プリント基板パターンの設計ツールなどを必要とします。しかし、埋め込みアンテナによる大量生産や品質の安定性、機器の小型化などの面においては優れた方法で量産の小型無線機器には多数適用されている方法です。

このSMDアンテナの基本的な設計・実装方法は、アンテナメーカーのデータシートに記載のプリントパターンを参考にして、配線とランドを形成し、場合によっては、ビアを適切に配置します。アンテナ近辺のグランドパターン、銅箔を完全に除去したヌルパターンの形成方法が重要となるため、アンテナメーカーからCADデータが供給されている場合もあります。また、通常はアンテナへの給電ラインは50Ωに整合されているか、そうでない場合は、整合パターンの実装回路が示されており、それらに従い配線と部品実装を想定した基板アートワークを行います。インピーダンスマッチングやその確認を基板製造後に測定によって行う必要があるため、アンテナパターンとマッチング回路が、本モジュールに接続される給電ラインに、測定器を接続できるようにパターンを用意しておくことを推奨します。

VNAによって、アンテナ回路を測定して、50Ωに整合するように整合素子を追加してください。本モジュールの出力インピーダンスも50Ωであるため、メーカのリファレンス設計やガイドでは、特にマッチングをしない場合でも整合する場合もあります。また、本モジュールのRF出力(ANT)端子から50Ω給電ラインは、プリント基板の層数、基板素材の比誘電率によって計算される特性インピーダンス50Ωの線路幅で配線する必要があります。また、裏面ベタ銅箔グランドでのコプレーナ線路(Coplanar Line)で形成することを推奨します。線路長をできるだけ短くした上で、給電ラインまわりのベタグランドにビアを多く配置して裏面ベタ銅箔グランドと接続します。4層基板などで設計する場合は、アンテナ放射に影響のないエリアの内層もできるだけベタグランドにすることが推奨されます。最終的なインピーダンスマッチングの精度は、実際に使用する筐体などに取り付けた状態によって測定されることを推奨します。

実際には、多数の電子部品を実装し、プリント基板の形状や筐体の制約などによって、複雑なチューニングを必要とします。先に挙げた、一般的な完成アンテナと比較して、理論、実際ともに複雑な工程や、試行錯誤を多く必要とします。また、実際に十分な電波の放射が得られているかの最終的な確認は、電波暗室での測定や、簡易的に行うにおいては、本モジュールの受信時のRSS値などを、基準となる完成アンテナのそれと比較するなどによって、実用的なアンテナ実装成果を確認できます。

図

図 12 SMD実装用アンテナチップ

人体や他の物体、特に金属面や水面などに接触して使用するような場合は、特にそれらの実際の環境において確認することが最も需要です。アンテナ近辺の物質の影響によって、アンテナからの放射電界が影響を受けることによって、反射、位相ずれなどが発生し、遠方に到達する電界強度が弱められる可能性があります。また、アンテナ近傍数十センチ以内の極めて近い範囲に影響を与える物質がある場合、アンテナ自体の共振ポイントがずれることによる、VSWRの大幅な低下が発生する可能性があります。実際の放射テテストなど検証に際しては、プリント基板形状、筐体、筐体内包物(バッテリーなど)、アンテナ近傍状態、接触物など実際の環境想定に合わせることを推奨します。

15.7 アンテナサイズとVSWRの関係#

アンテナのサイズは、原則として取り扱う波長や電力によって決まることがほとんどですが、本モジュールの電力は一般的なアンテナサイズ形状に対して十分小さいので、通常は電力を気にする必要はありません。(当社が、認証を取得しているアンテナは、ほとんどが1W〜2W以上の設計電力を持ちます)波長に対するアンテナのサイズは、λ/2ダイポールアンテナで、(若干の比誘電率による短縮効果はありますが、通常は)16〜17cm程度となります。図 13に実測結果を示しますが、周波数のマッチングするVSWRの谷のカーブは比較的緩やかであり、VSWR最小のポイントを含めたVSWR\<2.0の範囲(実用的に使用できるアンテナの帯域幅)は40MHz程度あります。一方で、アンテナサイズの小型化を図った小型アンテナにおいては、VSWRの谷部分の特性がより尖鋭になり、僅かなずれで、マッチングが極端に悪化してVSWRが劣化しやすくなる傾向があります。小型アンテナを使用する場合は、よりこの点に注意を払う必要があります。アンテナ周囲の物質などの影響を受けて、このマッチング周波数がずれてしまい、期待通りの電波放射が実現できなくなります。この比較は、本モジュールの同条件での受信側におけるRSSI値を観測するとすぐにその差に気付くと思います。測定器が無い場合は、簡易的に条件の良いアンテナと相対的に比較することで確認することも可能です。

図

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図 13 アンテナによるVSWR特性の違い(上: λ/2ダイポールアンテナ、下:小型アンテナ)