13 ハードウェアデザイン
本モジュールを最適な設計にてアプリケーションへ組み込むために、ハードウェア設計上必要な各要素について説明します基本的な回路構成図、および、特に注意する点などについて示します。
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13.1 無線回路への影響本モジュールのプリント基板などへの配置は、一般的な高周波無線部品の取り扱いに準じて取り扱うことが可能です。高周波クロックで動作するデジタルロジックがモジュール内に内蔵されており、また、それと接続するMCUなどのデジタルロジックからの影響が、設計したプリント基板から回り込まないように配慮してください。
本モジュールは、デジタル信号が集中した1〜9、16〜24ピン側と、RF高周波回路が実装さている10〜15部分に分けてプリント基板パターンに配慮することが理想的です。
デジタル信号部分、および周辺をデジタルグランド(DGND、もしくは、GND)として配置し、10〜15部分を含むグランドパターンをアナロググランド(AGND)として取り扱ってください。DGND(GND)とAGND間は、最小の結線で繋ぎます。デジタルノイズの影響を低減し、RF高周波への影響を小さくします。
プリント基板は2層以上のものを使用し、グランドパターン部は、本モジュールで隠れる部分などのベタグランドは、ビアを十分に配置するなどして、インピーダンスを下げてグランド電位を安定させることを推奨します。
また、RF信号を取り出すアンテナ端子付近については、GNDパターンを抜くか、引き出したアンテナラインとAGNDパターンをコプレーナ線路にて特性インピーダンス50Ωにマッチングさせてください。極めて短い配線の場合でかつアンテナが50Ωに整合済みの完成キットアンテナを接続する場合においては、ランドパターン幅程度の配線にしてマッチングに関する特段の配慮を省略してもかまいません。コプレーナ線路のグランド部分は、ビアを配置してください。
アンテナ線をANT端子から、約数センチ以上引き回す場合や、アンテナのマッチングネットワークの構成を必要とする場合は、プリント基板、配線パターン、マッチング素子、アンテナ素子において、アンテナメーカーが推奨する適切な方法でインピーダンス整合をとるようにしてください。
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13.2 信号線のレベルシフトと省電力設計本モジュールを実際の回路、アプリケーションへ実装する場合、特にLoRaWAN Class Aにおける実装では、本モジュールへの給電をカットすることを検討すると思います。モジュール待機時の電流は小さいですが、数ヶ月から年単位の電池駆動のアプリケーション設計においては、電流のカットによる電池寿命の延長は極めて効果的です。また、その場合においても、制御MCUなどは、タイマーや他の処理で稼働する場合もあり、本モジュールとの信号の絶縁を必要とする場合があります。
モジュールへの給電を断つ場合、給配電回路にロードスイッチや、ハイサイドFETスイッチ(通常はP-ch MOSFET)を設けることで電流をカットできます。ただし、この場合は、本モジュールの各I/Oピンと、外部の結線状態に注意を払ってください。電源が断たれた本モジュールの各I/Oピンは、給電がされていないCMOS ICの入出力ポートとなるため、それらとの結線先が活性状態の場合、本モジュールのI/Oピンを通して、電流が貫通する可能性が生じます。その結果、給電カットしたにもかかわらず、この漏れ電流によって、設計期待上の省電力効果が得られないばかりか、過電流によって、本モジュールなどを破損するリスクがあります。
外部結線回路が活性状態で、本モジュールの給電を遮断する場合は、各GPIOに、片方向、もしくは、双方向の遮断回路を挿入してください。通常、単一MOSFET、反対向きに結合し、コモンソース配置したN-ch MOSFET(図 6)、バススイッチICなどを使用することで実現可能です。
図 6 コモンソース配置したN-ch MOSFET遮断回路例
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13.3 アンテナ・筐体本モジュールは、アンテナを内蔵していません。920MHz近辺の電波放射に適したアンテナを、電波法による工事設計認証において当社が登録しているアンテナを選択して利用することが可能です。
アンテナは、いくつかに分類可能ですが、完成アンテナのうち、外部露出アンテナとして使用可能な種類のアンテナについては、特段設計上の配慮は必要無く、同軸ケーブルによる僅かな損失のみで接合可能です。筐体などに貼り付けて使用することが可能な完成アンテナにおいては、アンテナ設計メーカが指定する素材、貼り付け場所などにおいて、整合するように作られており、それに準じた使用方法で無ければ、共振周波数がずれ、本モジュールから出力される電力が最適に放射されず、通信距離が短くなる可能性があります。アンテナを筐体に貼り付けた状態において、実際の使用方法に近い形態で、アンテナインピーダンスの測定と、配置の調整などを実施することを推奨します。ベクトルネットワークアナライザーを使用することで測定可能ですが、安価なアンテナインピーダンスアナライザー等でも十分に測定に供します。
マッチングネットワークの形成を要する、基板上に実装するアンテナなど、組み込みアンテナを使用する場合は、本モジュールの信号出力インピーダンスが50Ωであることを前提に、プリント基板の配線パターンを形成してください。また、使用する周波数帯において、十分に余裕のあるVSWR(電圧定在波比)が得られるようなインピーダンスマッチング回路が作れることが望ましいですが、基板サイズの制約や、アンテナの特性によって、共振範囲が狭くなる可能性があります。これらアンテナとの整合については、当社本モジュールのサポート範囲を超えるため、アンテナメーカーのサポートを得るか、当社が別途提供するIoT設計コンサルティングサービスへお問い合わせください。
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13.4 UARTボーレート本モジュールが使用するシリアル通信方式であるUART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)は調歩同期式シリアル通信の一種であり、そのクロッキング精度は、送受信モジュールそれぞれのクロック精度やコントローラーの性能に依存します。また、UARTにはビット反転などの誤りを検出するパリティ機能はありますが、訂正する機能はありません。プリント基板上でUARTバスにノイズが乗った場合なども含めて、送受信データの信頼性を確保する手段を要する場合は、別途、アプリケーションやその他の実装上での対応を必要とします。
より簡単に問題を回避する方法は、UARTのボーレートを下げることで、低クロックの省電力マイコンなどでも、無理なく安定したUART通信を行えます。通常、9600bps(本モジュールのデフォルト)を使用することで多くの場合、安定して使用することが可能です。
文字化けなどが発生する場合は、UARTの配線長と配線経路について、プリント基板上のスイッチング電源や他の高クロック信号線の近辺を避けるなど、配線経路の考慮により改善が可能です。
より高いビットレートで使用する場合は、クロック源の精度の向上と、マイコン内蔵のハードウェアシリアル通信処理回路を使用するなど、信頼性と精度の高い方法を検討してください。
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13.5 バッテリーの使用本モジュールは、幅広い電源要件に対応しており、また、高い省電力性から、小型のCR系のコイン電池、乾電池、リチウム系一次電池、リチウムイオン・リチウムポリマーなど3.7V電源、USB VBUSやDC5V電源など低圧系電源を広くサポートします。
よく使用が想定される電池・電源を以下表 9、表 10、表 11に列挙します。ここでの最高電圧は例、または、概算値であり、電池の組成、型番、気温などによってさらに高くなる場合があります。また、最高電圧は、充電機構を内蔵した場合は、充電電圧を加味して設計する必要があります。
表 9 モジュールのVCCへ直結できる電池・電源の例
電池・電源 | 公称電圧 | 最高電圧 | 説明 |
---|---|---|---|
Ni-MH電池 2本直列 | 2.4V | 2.8V | ニッケル水素充電電池 |
CR系コイン電池 | 3.0V | 3.2V | CR2302以上を推奨 |
リチウム系電池3V | 3.0V | 3.2V | CR123A, CR2など |
乾電池 2本直列 | 3.0V | 3.3V | マンガン・アルカリ |
LiFePO4 1cell | 3.2V | 3.8V | リン酸鉄リチウム電池 |
LiFePO4 1 cellは、充電時の端子電圧に注意が必要です。充電時の端子電圧が、3.7Vを超える場合は、モンモジュールにその電圧は直結できません。充電時は、絶縁回路を挟むなどの対応が必要です。
表 10 降圧によって使用できる電池・電源の例
電池・電源 | 公称電圧 | 最高電圧 | 説明 |
---|---|---|---|
USB VBUS | 5.0V | 5.3V | |
リチウム系電池6V | 6.0V | 6.4V | 2CR5, CR-P2など |
Ni-MH電池 3本直列 | 3.6V | 4.2V | ニッケル水素充電電池 |
Ni-MH電池 4本直列 | 4.8V | 5.6V | ニッケル水素充電電池 |
LiB/LiPO 3.7V | 3.7V | 4.3V | リチウムイオン/ポリマー |
乾電池 3本直列 | 4.5V | 4.95V | マンガン・アルカリ |
乾電池 4本直列 | 6.0V | 6.5V | マンガン・アルカリ |
ACアダプタ | 5V〜 | - | |
12V車ソケット | 12V | 15V | |
12V鉛蓄電池 | 12V | 13.5 | Lead Acid |
12V系LiFePO4 | 12.8V | 14V | リン酸鉄リチウム |
24V車ソケット | 24V | 28V |
表 11 昇圧によって使用できる電池の例
電池・電源 | 公称電圧 | 最高電圧 | 説明 |
---|---|---|---|
CR系 | 3V | 3.2V | CR2302以上を推奨 |
Ni-MH電池 | 1.2V | 1.4V | |
乾電池 | 1.5V | 1.65V | マンガン・アルカリ |
継続的に70mA以上を安定して引き出せる電池を選択する必要があります。また、電流消耗による内部抵抗の上昇により、使用できる電流量の限界がこの電流によって決まるため、電池の選択には注意してください。
充電時などにおけるチャージ電圧を含め、(公称電圧ではなく)最高電圧が3.7Vを超えないことが保証できる電池・電源については、VCC端子に直結できます。MLCC 0.1uF程度のバイパスコンデンサをVCC端子近くに設置して、これらの電源を直接給電することで、電圧レギュレータやDC-DC電源の損失無く、高い効率でモジュールを駆動できます。
また、下限電圧については2.5V程度、もしくは、RF放射電力がやや低下することを許容できる場合は、1.7V程度まで使用することができ、電源電圧が、この下限電圧において、動作負荷時に70mA程度の出力電流を得られる場合、使用可能です。
電圧が、一瞬でも定格電圧(1.7V)を下回った場合、モジュールはリセットを発生させます。また、再通電時に電圧が安定しない場合、モジュールは起動しません。使用方法において、安定した動作を期待する場合、もしくは、設定値のフルパワー出力を期待する場合は給電電圧を監視し、余裕のある電圧での給電停止を行うことが望ましいといえます。
電源を降圧させて使用することは可能です。3.7Vを超える可能性がある給電を行う場合は、必ず、安全な方法で、所定の定格電圧、動作電圧の範囲内になるように降圧回路構成してください。
スイッチング電源よって降圧する場合は、リプルが大きくなることを想定し、3.3V〜3.5V程度の範囲で出力した電源を、本モジュールのVCC端子に印加することを推奨します。本モジュール内にVCC端子からの給電に備えたLDOを配置しており、内部各素子に安定した電圧を供給します。この場合、スイッチング電源によるDC-DCのリプルの影響は、ある程度抑える効果が働きます。ただし、消費電力全体から見たときに、内部のLDOにおける損失は僅かに発生します。レベルシフタの信号レベル基準電圧や、小型マイコン、省電力センサーへの給電に使用することが可能ですが、その電流消費量には注意してください。
乾電池一本などから、電源昇圧回路によって、VDDやVCC端子へ給電可能な電源を作り出すことも可能です。一般的に、降圧回路に比べてDC-DC変換効率は劣化しますが、機器の小型化のための方法として有力です。
MCUを直給電での低圧動作可能なものを使用し、本モジュールへの給電は、LoRa通信が必要な時に限って、昇圧給電させることで、電池寿命を飛躍的に延ばすことも可能です。その場合は、動作時の電流量において最適効率になる昇圧回路を構成してください。一方、常時昇圧給電を行う場合は、待機電流に最適化する方が一般的に電源効率はよくなります。
昇圧型電源によって給電する場合は、VCCへ2.3V程度以上での給電を推奨します。