8 無線通信(ハードウェア・無線技術を中心に解説)
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8.1 LoRa変調パラメータLoRaスペクトラム拡散方式で変調する際に、そのパラメータとしてBW(Bandwidth:変調帯域幅)とSF(Spreading Factor:拡散係数)があります。BWは、信号が占める周波数の幅を指します。本モジュールでは帯域幅として、125 kHz、250 kHz、500 kHzが使用できます。BWを狭くするほど、8.2節で後述するようにデータレートが低くなり、通信速度が低下しますが、8.3節で後述する受信感度が向上します。SF値は、LoRaスペクトラム拡散変調におけるチャープ信号の持続時間を決定するパラメータ値で、本モジュールではSF値:5からSF値:11の範囲で設定できます。SFの値が増加するにつれて、データレートが低下しチャープ信号の送信時間が長くなりますが、信号の冗長性が高まりノイズに対する耐性が向上することで、より長距離の通信が可能になります。
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8.2 AirTimeとAirBitRateLoRaパケットのフレーム構造として図 38となっており、プリアンブル部、ヘッダー部、ペイロード部(本モジュールでのユーザペイロードの最大200バイトを含む)、ペイロードCRC部で構成されます。ヘッダー部はペイロードに関する情報を提供し、バイト単位のペイロード長、前方誤り訂正符号化率CR(Coding Rate)、ペイロードに対するオプションの16ビットCRCの有無について含まれています。LoRa通信では、ヘッダーの扱い方に関して2つのモードがあります:明示的ヘッダーモードと暗黙的ヘッダーモードです。
明示的ヘッダーモード:上記のヘッダー情報がパケットに追加されます。このモードは柔軟性が高く、受信側がパケットの内容を正確に解釈できるため、一般的に使用されます。
暗黙的ヘッダーモード:ヘッダー情報がパケットに含まれず、送受信側で事前に取り決めたパラメータを使用します。このモードはパケットサイズを小さくできますが、柔軟性は低くなります。
本モジュールでは、より汎用的で信頼性の高い通信を実現するため、明示的ヘッダーモードを採用しています。
図 38 LoRaパケットフレーム
LoRa電波送信時間ToA(Time on Air)は次式で計算されます。
ここで、式の各パラメータは次のとおりです。
・ToA:送信時間(単位はms)
・SF:拡散率
・BW:帯域幅
・N_symbol:シンボル数
また、シンボル数の計算は変調のパラメータによって異なり、SF値:5およびSF値:6の場合、次式で計算されます。
その他のSF値の場合は、次式で計算されます。
ここで、
・N_symbol_ preamble:プリアンブルのシンボル数
・N_byte_ payload:ペイロード長(byte)
・N_bit_ CRC:CRCが有効な場合は16、無効の場合は0 (本モジュールは有効)
・N_symbol_ header:明示的ヘッダー有効モードは20、無効の場合は0(本モジュールは有効)
・CR:1から4の整数値をとります(実際の値はLoRa変調パラメータにおけるCore Rateの4/5, 4/6, 4/7, 4/8に1〜4の値が対応)(本モジュールはCode Rate 4/5 を使用しており、ここでのCRは1として計算される)
ペイロードサイズ200byteのときの電波送信時間についてSFとBWの組み合わせで計算した結果が表 4になります。
表 4 SF値(拡散率)と、BW(帯域幅)による送信所用時間(ペイロード200byteの最大時)
SF値(拡散率) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | ||
BW (帯域幅) 単位kHz | 125 | 196.928 | 299.136 | 488.704 | 813.568 | 1,381.376 | ||
250 | 99.744 | 152.128 | 249.472 | 417.024 | 711.168 | 1,238.016 | ||
500 | 50.512 | 77.344 | 127.296 | 213.632 | 365.824 | 639.488 | 1,115.136 |
単位:ms
また、本モジュールがシリアルポートから受け取った送信データをLoRa変調する速度は次式で計算されます。
ここで、
・Rb:変調速度(bps)
・SF:拡散率
・BW:帯域幅
・CR:値は4/5, 4/6, 4/7, 4/8をとります(本モジュールでは4/5、詳細は前式説明を参照)
実際に送信できるデータ量(実効データレート)は、この計算式で得られる理論値よりも低くなります。これは、プリアンブルやヘッダー、エラー訂正のオーバーヘッドが存在するためです。LoRa変調速度についてSFとBWの組み合わせで計算した結果が表 5になります。
表 5 SF値(拡散率)と、BW(帯域幅)によるLoRa変調ビットレート
SF(拡散率) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | ||
BW (帯域幅) 単位kHz | 125 | 15,625 | 9,375 | 5,469 | 3,125 | 1,758 | ||
250 | 31,250 | 18,750 | 10,938 | 6,250 | 3,516 | 1,953 | ||
500 | 62,500 | 37,500 | 21,875 | 12,500 | 7,031 | 3,906 | 2,148 |
単位:bps
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8.3 受信感度および送信電力と通信距離BW・SFと、LoRa変調された電波の受信感度について、受信感度は次式で与えられます。
ここで、Sは受信感度(dBm)、BWは周波数チャンネルの変調帯域幅(Hz)、NFは受信機の雑音指数(dB)を表し、本モジュールのLoRaモデム(LLCC68)ではNF = 6 dBとなります。SNRはSN比(dB)を表します。SF値(拡散係数)に対応して受信可能なSNRに限界があり、この限界を超えると、受信機は信号を復調できなくなります。下の表 6にSF値(拡散係数)に対するSNRの限界値を示しています。
表 6 SFに対するSNRの限界値
SF: Spreading Factor | SNR(dB) |
---|---|
5 | -2.5 |
6 | -5.0 |
7 | -7.5 |
8 | -10.0 |
9 | -12.5 |
10 | -15.0 |
11 | -17.5 |
先の計算式より、BWを小さく、SFを大きくするほど受信感度が向上します。E220-900T22S(JP)/22L(JP)で設定できるパラメータで計算すると以下の表 7になります。
表 7 BW、SF値の設定と受信感度の関係
パラメータ | 受信感度 |
---|---|
BW:125kHz SF:9 | -129.53 dBm |
BW:250kHz SF:10 | -129.02 dBm |
BW:500kHz SF:11 | -128.51 dBm |
送信電力と通信距離については、13.2節の通信可能距離にて記載の関連情報も併せて参照してください。
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8.4 キャリアセンス動作本モジュールは電波法の規則に則り、送信前に短時間のキャリアセンスを行います。電波送信を開始する前に送信周波数チャンネルの環境ノイズ強度が-80dBmを下回る状態が5ms継続した状態であれば、電波送信を開始するようになっています。Strict Mode(v2.0厳格動作)を有効にした場合、送信前のキャリアセンスにおいて環境ノイズ強度が-80dBm以上の状態が続く場合に、どれくらい送信待機するかについて、第9章のレジスタ0x0Aにて最大待機タイムアウト時間を設定することができます。タイムアウトした場合は送信を中止し、送信対象の送信パケットを破棄し、状態レジスタ0xA1のbit 2に1がセットされます。
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8.5 暗号通信レジスタ0x06と0x07にて設定した、16ビットを通信暗号キーとして設定することができ、本モジュール(22S、22L)によるワイヤレスデータの傍受を回避するための暗号化に使用されます。 モジュールは、これらの2バイトを計算係数として使用して、ペイロードデータを変換および暗号化します。送受信するモジュール間では、通信暗号キーに同一の値を設定する必要があります。
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8.6 WOR通信本モジュールのWOR機能は、受信電力の大幅な削減を目的として実装されています。
WOR受信においては、図 39のように、8mAの消費電流を費やす僅かな時間の受信アンプ動作と、5uAの待機電流による長い待機動作の組み合わせ動作を繰り返すことで、平均消費電流を大きく削減します。レジスタ0x05のWORサイクル設定値によって、待機動作の動作時間比率が変わります。WOR送信は、図 39のように、このWOR受信状態での動作比率の内、受信アンプ稼働時間内にWORプリアンブルが受信できるように送信パケットにプリアンブルが追加され、送信します。結果として、プリアンブル分の電波発射時間が長くなり、送信側において余分な電力を消費します。また、WORサイクル設定が適切である限りにおいては、送信側での送信タイミングは気にする必要はありません。WORの設定パラメータが送信側・受信側で同じでない場合、WOR送信プリアンブルと、受信アンプの動作周期がかみ合わなくなり、パケット送達の確立が、低下、不安定になるため、使用時の設定には注意してください。
図 39 WOR機能の動作イメージ
WORの利用で、電力消費の負担のトレードオフが、受信側と送信側で逆転します。一般に、通常基地局など(商用電源などからの給電など)待受電力の余裕を前提とされますが、図 40の通り、WOR機能により受信側の待ち受け電力を抑制した使用方法が可能となります。逆に送信側は、送信時にプリアンブル送出分の送信電力が余分に必要で、送信頻度が多いアプリケーションには不向きです。WOR機能は、めったに受信しない機器の待ち受け電池寿命を延ばしたい場合に最適です。
図 40 WORサイクルと消費電流の図
WOR送信時、プリアンブルが伝搬空間帯域を占有することになるため多量のWOR送信は電波空間の利用効率が下がります。また、920MHz電波法規定により、送信時間が400ms制限の規定があるアッパー周波数チャンネル923.5 MHz~928.0MHzの範囲では、プリアンブル送信にかかる時間が制限を超えてしまうため、WORモードを使用することはできません。
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8.7 環境ノイズモニタリングレジスタ0x03のbit5を1に設定することで、環境ノイズモニタリング機能が有効になり、モジュールの待受周波数チャンネルの環境ノイズ強度(dBm)をコマンドにより取得することができます。コマンド操作による方法は第10章を参照してください。