AirChekerによる通信距離と信号強度のフィールド実験

” 遠くまで飛ぶ “ というLoRaの最大の特徴を検証するためのフィールド実験を行ったレポートです。

この記事について


AirCheckerは、LoRaモジュール、GPSモジュール、microSDカードモジュールおよび7セグメントLED表示器を搭載しており、LoRa通信の通信可能範囲とその範囲での受信感度であるRSSI値(Received signal strength indication)の実測と同時にGPS位置情報を記録できる機器です。
AirCheckerは、それ1台で、アクセスポイント(基地局)、デバイス(移動局)、加えてアクセスポイント、デバイスそれぞれのRSSI値を表示するモニタ機と、1台4役を担う機器です。
機器の役割の変更はDIPスイッチで行います。
今回は、AirCheker を実際に使用して、LoRa通信の可能性、有効性とAirChekerの実用性を検証するためのフィールド実験を行った結果を記載するものです。

実験の概要


LoRaの通信到達距離、遮蔽物の影響と、使用するアンテナによる比較をおこなうためにフィールド実験を行いました。

概要は、アクセスポイント(基地局)の設置場所(建物)を、ビル内13階窓際、ビル屋上(3階相当の高さ)とし、一定間隔毎(今回は5秒)にアクセスポイント(基地局)から送信パケット(ビーコン)を発信。自動車屋根に設置したデバイス(移動局)でフィールドを移動しながら受信し、RSSI値とGPS位置情報をmicroSDカードに記録。デバイスで記録されたmicroSDカード内のデータを実験終了後に評価するというものです。
AirCheckerは、7セグメントLEDによってRSSI値をリアルタイムに表示しますが、自動車屋根に設置した場合にはRSSI値の表示が目視できないため、AirCheckerのRSSI値モニタ機能を利用し、自動車内で確認しながらフィールドを移動しました。

実験結果のまとめ


設置場所による結果の違いは、あきらかに、高所に設置した場合の方が到達距離は長い。

起伏と遮蔽物のあるフィールドにおいては、遮蔽物によってはある程度の回り込みによる受信は可能だが、エリア内で見通しの効くエリアはピンポイント的に通信が可能。

完全に見通せるエリア(基地局ビルが見えるエリア)では、今回の最遠直線距離は19.5cmアンテナでは7.3kmで通信可能となった。

アンテナについては、19.5cm(DTA-LO9002)の場合、回り込み、通信可能距離ともに良い結果が得られた。
11cm(DTA-LO9001)については、通信可能距離は19.5cmに及ばないものの、通信可能エリア内では19.5cmと遜色のない結果が得られた。

今回の実験で考慮しておかなければならない点がひとつ。アクセスポイントを設置した13階の外壁に設置されている鉄骨足場と養生シートがLoRa通信になんらかの影響を及ぼす可能性の有無があげられます。

測定機器構成と設置場所


機器構成

AirCheker の機能 台数   設置場所     
アクセスポイント(基地局) 設置場所は13階と3階相当の屋上に移動
デバイス(移動局) 1BOX軽自動車の屋根に設置
RSSI値モニタ 1BOX軽自動車車内

設置場所

アクセスポイントの設置場所

アクセスポイント設置場所の2カ所は、東方向から東南方向へ開けた位置となります。
また、実験日は、設置場所1については外壁改修工事のためビル東面(13階含む)には工事用
シート、鉄骨足場が設置されています。

設置場所の外観(けいはんなプラザホームページより)

アクセスポイント(基地局)設置場所1    13階窓際

窓の外に外壁改修工事のための工事用養生シートと鉄骨足場が設置された状態。

アクセスポイント(基地局)設置場所2    ビル3階の高さ相当の屋上、屋外に設置。

デバイス(移動局)の設置


2種類のアンテナ別のデバイスを1BOX軽自動車のルーフキャリアに固定。

1BOX軽自動車の屋根に設置した状態

LoRa設定 と 測定時の環境


LoRa( E220-900T22S(JP) )設定

帯域幅(bw値) 125kHz
拡散率(sf値)   9
送信出力電力    13dBm
送信パケット長   32バイト
パケット送信間隔   5秒

帯域幅(bw値)、拡散率(sf値)はそれぞれ、E220-900T22S(JP)のデータシートでの最高受信感度(spec値.-129dBm)を設定。

測定時の環境

実験当日の時刻・天気・気温
・ 19.5cmアンテナを用いた実験
計測時刻 15:50~17:22 / 天気 雨 / 気温 19.9度
・ 11cmアンテナを用いた実験
計測時刻 13:21~15:39 / 天気 雨 / 気温 19.9度

実験結果の評価


フィールド実験でのデバイス(移動局)の移動は、京阪奈学研都市の中心にあり当社が入居する「けいはんなプラザ・ラボ棟」ビルからスタートし、近隣ビルの回り込み受信を確認した後、起伏、遮蔽物のある南方向へ移動、直線距離6km程度から、東方向へ進み、ラボ棟ビルから見通しのよい住宅地のある丘陵地へ向かい、最遠直線距離が測れる住宅地奥(最遠地7.3km)を回り帰路という道程で行いました。
以下の画像は、実験で移動中に2台のデバイス内のmicroSDカードに記録されたファイル ”loralogxxxxx.geojson” (xxxxxxは記録されるファイルの連番) を、PC上でサイト
<https://geojson.io/> の</>JSONにそのままペーストして表示されたものです。
geojson.io でプロット表示された GPS位置情報とRSSI値を用いたマーカーの色は以下になります。

RSSI値 プロット色 RSSI値 プロット色
RSSI > -30 濃い赤 RSSI > -110 青緑
RSSI > -40 濃い赤 RSSI > -115 水色
RSSI > -50 RSSI > -120 空色
RSSI > -60 RSSI > -125
RSSI > -70 薄い赤 RSSI > -130 濃い青
RSSI > -80 トマト RSSI > -135
RSSI > -85 ダークオレンジ RSSI > -135
RSSI > -90 オレンジ RSSI > -140 濃紺
RSSI > -95 黄色 RSSI > -145 濃紺
RSSI > -100 黄緑 RSSI > -150 濃紺
RSSI > -105 LoRaデータなし 薄い灰色

実験結果1   アクセスポイントを13階窓際に設置した場合


デバイス1   19.5cm標準アンテナ による結果


ラボ棟ビルから半径200m以内の近隣ビル回り込み、半径600m以内での緩やかな起伏を含み低い建造物のある地区の受信状態は、LoRaの特徴の一つである回り込みにも強いという結果を表している。
南方向は直線距離6km(東に向かう地点)までの間、起伏と住宅地・商業施設などの遮蔽物が多く、受信可能な地点がまばらな状態となったが、顕著なのは比較的小高い地区、平坦な土地が連続している地区において受信可能となった。
東方向で受信可能となった地区は、なだらかな丘陵にある住宅地で、ラボ棟からの見通しが利き東に行くほど標高が高くなっていく地区であり、住宅地の最も奥の地区で最遠直線距離が7.3Km、RSSI値-123dBmとなった。
ただこのデバイスでの結果の期待値を裏切って受信不可となった中央と上部の地区について、自動車屋根に取りつけた雨天による影響か、なんらかの物理的要因で受信できない状況が発生したものと推察。その地区についての期待値は、-120~-130dBm程度で受信可能な結果がでることだった。再度の実験が望まれる。

デバイス2   11cm小型アンテナ による結果


ラボ棟近隣の回り込みは、RSSI値も高めの受信結果となった。
南方向の、起伏のある地区、遮蔽物のある地区および東方向の遠距離な地区では、11cmという短いアンテナの特性により受信可能な範囲外となった。
ラボ棟北東の地区は、ラボ棟からは標高が低くなっていく地域となり、細かな起伏、住宅地を超えて直線距離3.3km、RSSI値-117dBmで受信可能となった。
この結果により、先述の19.5cmアンテナの場合、地図上の中央と上部についてはより広範囲に受信可能だったことが期待できる。

実験結果2   アクセスポイントを3階(相当)屋上に設置した場合


デバイス1   19.5cm標準アンテナ による結果


13階に設置したときの受信可能域と類似した結果となったが、やはり設置場所が3階相当の屋上という高さのハンディは否めず、若干狭範囲な受信可能域となった。
最遠直線距離は、7.2km、RSSI値―128dBm。

デバイス2   11cm小型アンテナ による結果


設置場所の高さが最大限に結果に表れ、回り込みはラボ棟ビル100m以内、最遠距離も東方向の半径600m、RSSI値-97dBm程度となった。

参考実験


少し小高い住宅地の中ほどの(周辺にくらべ20~30mほど高い標高)戸建ての2階窓際(室内)にアクセスポイントを設置、デバイスは普通乗用車の車内ダッシュボード中央に固定して行った実験の例。
  bw値250、sf値10
  最遠直線距離は9.3Km RSSI値 -134dBm 19.5cmアンテナ
最遠距離までの間には、比較的低地の住宅地、河川沿いの低地があり河川に沿って届いたものと推察。
デバイスを自動車屋根ではなく車内に固定したことによる受信状況を考慮してもLoRaの優秀さが検証できた。

(地図上にプロットされたマーカーの色は、このデータを記録した開発時期において、信号強度を示す色分けが逆になっています。マーカーの青系が信号強で、強度が弱まるに従い徐々に緑、黄、となり、赤が信号弱。)

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